『田園の詩』NO.112 「窮屈な学生服」 (2000.4.11)


 
教育委員として告辞文を読むために、卒業式・入学式に参列するようになって2年目
になります。3月初旬に中学校の卒業式に出席しましたが、今年は昨年のように緊張
もせずに式の一部始終をじっくりと見ることができました。

 田舎の中学校は生徒数が少ないので、卒業証書は一人一人に直接渡されます。名前
を呼ばれて壇上に上がった生徒を下から眺めていて、私は、彼らの学生服の上着が、
身体を動かすのが不自由なくらいに小さいのに気が付きました。袖からはシャツが長く
出ていたり、礼をすればズボンのベルトが見えたりもします。

 県内のほとんどの公立の中学校は、男子が詰め襟、女子はセーラーの学生服です。
小学校は私服なので、子供達は中学校に入学する時、学生服を新調します。

 入学式に、新しい服を着て晴れがましく出席する彼らの姿には、どこか滑稽なところが
あります。袖の中に手が隠れていたり、上着の裾が膝まで届いていたり、といった具合
です。

 学生服は、3年間使用するので、身体の成長を見越して大きめのサイズを買うのです。
そんな親の見通しをはるかにオーバーする程、子供達は大きくなります。

 親にとってはうれしい誤算ではないでしょうか。卒業式とは、更に強く逞しくなるために
昆虫が脱皮するように、窮屈な学生服を脱ぎ捨てる日なのかもしれません。

 それにしても、中学校の3年間の子供たちの成長は目を見張るものがあります。入学時
は子供の顔だったのに、卒業生はもう大人の仲間入りをしてもおかしくないような顔になっ
ています。身体も顔も、そして心も随分大きくなった彼らが、次のステップに進み、更に大
きな服を着る日ももうすぐです。


      
     私が、そして子供たちが通った中学校です。生徒数の減少で統合されて、
      平成21年3月で廃校になりました。いずれ、この記念碑だけになるかもしれ
      ません。  (10.1.18写)


 実は、私も委員になって式に参列する機会が多くなったので、礼服を新調しました。少し
太ってもいいように大きめのサイズにしました。これはどうも失敗したようです。太る気配
はありません。新入生の滑稽さをこれから何年も人前に晒すことになりそうです。
                             (住職・筆工)

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